一般的な観光ツアーでは、あくまでも観光スポットへ訪れることが主な目的になりがち。タイ旅行であれば有名な寺院への参拝、マーケット巡りなどが定番ですよね。
しかし、最近では観光スポットだけではなく、ローカルな場所を訪れて、その土地ならではの暮らしを体験できる旅のスタイルも注目を集めています。
そこで、今回は「Voyage」編集部メンバーが、チェンマイのコミュニティベースド・ツーリズムが体験できるローカルツアーに参加。タイの北部に暮らす、少数民族の村へお邪魔して感じた、リアルな体験をレポート!
地元の人々の暮らしに触れる、コミュニティベースド・ツーリズム
タイでは、政府の2016-2017年の国家観光開発計画を皮切りに、より“質”の高い観光客をタイに呼び込むための観光・スポーツ省の戦略の一環として、コミュニティベースド・ツーリズム(Community Based Tourism=CBT)を重視する取り組みが進んでいます。
「公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本」によると、タイの人口約6000万人のうち、タイ族が約85%と圧倒的多数を占め、少数民族は全人口の約1.5%(約93万人)だそう。そしてタイ北部には、山岳民族を含む多様な少数民族が、自分たちの文化を守りながら暮らしています。
山岳民族の暮らしに触れるツアーに参加! タイルー族の村を訪問
今回のタイ訪問で訪れたのは、少数民族であるタイルー族の村。
チェンマイ市内から東に約20kmのところにあるドイサケット地区に足を延ばすと「バーン・ルアンヌア・タイル―・ビレッジ」があります。その地で暮らす”タイルー族”は、多様な文化を持つ民族。
約700年前に中国南部のシップソーンパンナーからタイに移住してきたことが始まりで、現在も独自の文化や言語、民族衣装や料理などが受け継がれているとか。
村へ到着すると、歓迎の挨拶を受けました。“ユーディーキンワーン”(Yu Dee Kin Wan/อยู่ดีกิ๋นหวาน)は、タイ語の“サワッディー”と同じ意味のタイルーの人々の挨拶で、訪問者へのウェルカムの印として、タイ北部の人々が多幸を願う際に使う水に浸したウコンなどの葉を用いて、手に水をかけていただきます。
歓迎の儀式の後は、ツアーの体験者とタイルー族の皆さんと一緒に歌を歌いながら交流したり、料理を作ったりと、タイルー族の文化を五感で体験!
自然と共生するタイルー族の生活と、そのリアル
タイルーの人々は、庭で野菜を育てたり、ガチョウの卵を茹でたり、バナナの花(つぼみ)を使ったサラダを作るなどの食文化があります。
田んぼでカエルを捕まえて台所の炭火コンロで調理するなど、自給自足のシンプルな生活を送っています。村の料理として、“ミーコッブサイトゥーン”(Mi Khob Sai Toon/หมี่กบใส่ตูน)は有名。“ミー”はチリペーストの意味で、具材には北部の野菜とカエルが使われています。
ほかにも“ナムプー”(Nam Poo/น้ำปู๋)は、田んぼで捕れたカニをハーブと一緒にとろとろになるまで煮込み、チリペースト状になったらスープの味付けとして使います。
タイルー族の伝統的な住居は、高床式の住居です。1階は機織りなどの仕事場、2階がリビングルーム、寝室やキッチンがあります。
タイルー族は美しい織物や手工芸品を作ることでも有名で、特に女性が手掛ける伝統的な織物の体験もできました。
個人的に興味を惹かれたのは、伝統的な生活を守りながらも村全体にはWi-Fiが通り、人々は伝統衣装に身を包みながらも、私たちと同じようにスマホ片手に過ごしていたこと。そのあたりも外からの聞いた情報だけではわからない、リアルな日常を垣間見た、印象深い時間となりました。
ランチタイムには、タイルー族の名物料理に舌鼓
ツアーは村のコミュニティでのランチ体験も含まれていて、おいしい食事をたくさんいただきました。
「カオジー(Khao Ji/ข้าวจี่)」は、もち米をお団子状に丸めて平らに整え、溶き卵をコーティングしてきつね色になるまで焼いたもの。日本の焼きおにぎりに似たほっとする味。もちもちとした食べ応えのある感触に、絶妙な塩加減がきいていてパクパクいただけます。
また、パッタイが、本当においしくて驚きました。パッタイは油っぽさが気になることがありますが、ギトギト感がなくシンプル、かつ味わい深い味。
揚げたての米粉のドーナツも、モチモチした食感と自然な甘さで人気でした。
今回は行いませんでしたが、村では、タイルーの衣装に着替えて村の中をサイクリングしながら庭でランチの食材を収穫するなど、山岳民族の生活様式についても学ぶことができるコースもあるそうです。
また冬場には、”カイパーム”(Khai Pam/ไข่ป่าม)というバイトゥーイ(パンダンリーフ・パンダナスの葉)を使った焼き卵も人気。タイ北部ラーンナー地方の方々は小さな丸いテーブルを床に置き、たくさんのおかずを並べて手で丸めたもち米とともに食べる郷土料理”カントーク料理”を食べるのですが、みんなで食卓を囲んで、温かいひとときが過ごせそうですね。
CBTツアー主催「マニタビ」代表の想いとは
さて、今回、参加したツアーの主催者は、チェンマイで一歩踏み込んだマニアな旅を企画・運営するツアー会社「マニタビ」の代表・“チェンマイ坂田”こと、坂田直人さん。
“異日常な体験を通じて、人生の幅が広がる世界をつくる”ことを目指し、2023年にタイ・チェンマイへ拠点を移し、ローカルツアー事業のコーディネートを始めたそう。
もともと日本での大学時代、タイ・タマサート大学への交換留学を経て、将来はタイで活躍したいという思いから自動車メーカーへ入り、海外営業のタイ担当として勤務。起業を見据え外資系コンサルティング会社へ転職し、忙しくも充実の日々を送っていた坂田さん。
そんな折に親友の死を経験し、「人はいつ死ぬか分からない。彼の分まで強く生きなければ。自分が心の底からやってみたいことがあるなら”今”やらなきゃ!」という想いが芽生え、自問自答。そして、いつか仕事をしてみたいと考えていたタイで自分の人生を豊かにしてくれた経験を、タイになじみがなかった人でも実際に楽しんでいただけるツアーを提案したいと、一念発起。
2022年の夏にチェンマイで準備を始め、2023年の初めに現地で初めてのツアーをコーディネートした後に退職し、現在もチェンマイでコミュニティツアーを企画・運営しています。
自然と共存して生きてきた歴史を持ち、現在でも自然の中で生き抜く力を使い、強く逞しく生きている、タイルー族。
観光地化されたスポットも魅力的ですが、自然と文化が息づく場所での現地の方との交流は貴重な体験になるでしょう。タイ北部の自然を感じられるローカルツアーに参加して、自由かつディープな旅を体験してみませんか?
チェンマイで一歩踏み込んだマニアな旅を企画・運営
https://manitabi.com
取材協力:タイ国政府観光庁