書と絵画に親しんだ幼少期、女優としてスクリーンに立ち、アナウンサーとして言葉を届けた日々——
Tsuyumi Miwa(三輪つゆ美)さんの人生には、つねに芸術が寄り添ってきました。
日本、イタリア、オーストラリア、そして現在、拠点とするシンガポール。多様な文化に触れてきた彼女が今、アーティストとして再び絵筆をとり、色彩と光の対話を通して描くのは、個人の記憶と”シンガポール”という多文化・他民族が共生する土地の記憶が交差する情景。
「Voyage」での本連載「Story of Art」では、まず、三輪つゆ美さんが近年発表した「Singapore Cultural Series」において、シンガポールの多文化社会を支える無数の”日常のヒーロー”たちにフォーカス!
彼女が歩んできた芸術の軌跡と、作品に込められた想いを、ひとつずつ紐解いていきましょう。
【Story of Art.11】 チャイナドレス職人 ― 一針に宿る、時代を超える美しさ

“A Cheongsam is not just a dress—it is confidence, grace, and heritage woven into every seam. To wear one is to embody history, to craft one is to preserve an art form.”
チャイナドレスは、単なる衣服ではありません。
それは自信であり、優雅さであり、そしてすべての縫い目に織り込まれた文化そのもの。
身にまとうことは歴史を体現すること、仕立てることは芸術を守り継ぐ行為なのです」
”チャイナドレス(旗袍)”は、中国のハイファッションを象徴する存在として、世界中に知られています。
起源は20世紀初頭の上海にさかのぼり、満州族の衣装「旗装」をもとに発展しました。1920〜30年代には上海の社交界で広く受け入れられ、洗練された装いとして確立されていきます。立ち襟や斜めに重なる前開き、身体のラインを美しく引き立てるシルエット。その特徴は、今なお色あせることなく受け継がれています。
素材にはシルクが用いられることが多く、繊細な刺繍や吉祥文様が施されるのも特徴。花や鳳凰、龍といったモチーフは、女性らしさや力強さ、そして優雅さを象徴するものです。伝統的な意匠が大切に守られる一方で、現代のデザイナーたちは新たな解釈を加え、時代に寄り添うかたちで進化を続けているよう。古典と現代性が重なり合うことで、チャイナドレスは今も新たな魅力を放っています。
その存在が改めて世界の注目を集めたのが、2010年のカンヌ国際映画祭でした。女優ファン・ビンビンが、龍と雲のモチーフをあしらったゴールドイエローのチャイナドレスを纏い登場。その姿は大きな話題を呼び、この優雅な衣服への関心を、再び高めるきっかけとなります。伝統が現代の舞台で輝いた象徴的な瞬間でした。
シンガポールでこの文化を守り続けているのが、「Susan’s Batik House」のオーナーであるスーザンです。長年にわたり技術を磨いてきた彼女の手は、静かな確信に満ちているよう。
動きに迷いはなく、一針ごとに積み重ねられるのは職人としての誇りそのもの。穏やかでありながら情熱的な彼女にとって、チャイナドレスは単なる衣服ではありません。そこには生きた歴史が息づいています。
彼女が仕立てる一着一着には、伝統と技術、そして美しさが織り込まれています。その積み重ねによって、この文化は今も途切れることなく受け継がれています。ひと針、またひと針と重ねられる手仕事。その静かな営みこそが、時代を越えて受け継がれる美のかたちなのかもしれません。
次回は、また別の”日常のヒーロー”が登場!
その一筆一筆の向こうに広がるシンガポールの多様な文化の物語を、どうぞお楽しみに。
🌕お知らせ
こちらの連載は、”毎月の満月の日”に更新されます。
次回の連載は、2026年5月2日(土)を予定しています。

