【画家とめぐる日本】第2回|長野・木曽漆器「丸嘉小坂漆器店」― 木と漆、光が出会う場所

日本各地に受け継がれてきた、美しい手仕事を訪ねる「An Artist’s Journey Through Japan――画家とめぐる日本」。

第1回の京都・西陣織に続き、アーティスト・三輪つゆ美さんが今回訪ねたのは、長野県・木曽平沢。豊かな森林に囲まれた木曽では、古くから木とともに人々の暮らしが営まれ、そのなかで漆器の文化が育まれてきました。

今回訪れた「丸嘉小坂漆器店」は、この地に受け継がれてきた漆の技を大切にしながら、ガラスなどの新しい素材も取り入れ、現代の暮らしへとつながるものづくりを続けています。

長い時間を重ねてきた伝統と、新しい感性。その二つが出会う工房で、三輪さんが見つけたものとは――。

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第2回 長野・木曽漆器:木と漆、光が出会う場所――丸嘉小坂漆器店

今回の旅で訪れたのは、長野県・木曽平沢。

周囲を豊かな森に囲まれた木曽では、その自然とともに人々の暮らしや文化が育まれてきました。豊富な木材を背景に木工の技術が発達し、そこに漆を重ねることで、美しさと丈夫さを兼ね備えた器がつくられてきたのです。

今回訪ねたのは、木曽漆器の産地に工房を構える「丸嘉小坂漆器店」。迎えてくださったのは、小坂怜央さんと智恵さんご夫妻です。工房に足を踏み入れると、棚には器や道具、漆の入った容器が並び、長い年月にわたって人の手が重ねられてきた仕事場ならではの空気が漂っていました。

そして、私の目を引いたのが漆の「光」でした。丁寧に磨かれた漆の表面に、やわらかく映り込む光。漆器というと、完成した器の美しさに目が向きがちですが、この場所に立っていると、その奥にある膨大な時間や、人の手の動きまで見えてくるような気がしました。

塗り、乾かし、磨く。漆器に重ねられる時間

漆器づくりは、とても時間のかかる仕事です。

漆を塗り、乾かし、磨く。そして、また塗る。
一つひとつの工程を繰り返しながら、少しずつ漆の層を重ねていきます。
一つの器が完成するまでには、数週間、ときには数カ月を要することもあるそうです。

小坂さんご夫妻が工房で作業する姿を見ていると、その一つひとつの動きには無駄がなく、二人の間には静かな調和が流れていました。

何世代にもわたって積み重ねられてきた知識や技術を受け継ぎながら、一つのものと向き合う。けれど、ここで感じた「伝統」は、ただ昔と同じものをつくり続けることとは少し違いました。

伝統から生まれる、新しい漆のかたち

「丸嘉小坂漆器店」で特に心を惹かれたのが、漆とガラスを組み合わせた「漆硝子」。伝統的な木の器だけではなく、ガラスという異なる素材に漆を施します。透明なガラスと深みのある漆が重なることで、木の器とはまた違った光の表情が生まれるのです。

実際に制作する様子を目の前にすると、とても不思議でした。何百年もの歴史を持つ技法が、現代的な素材と出会うことで、まったく新しいものに見えてくるのです。

古いものと新しいもの。どちらか一方を選ぶのではなく、その間に新しい表現を生み出していく。「丸嘉小坂漆器店」のものづくりを見ながら、伝統とは、変わらないことではなく、大切なものを残しながら変わり続けることなのかもしれないと感じました。

木曽の豊かな森が育んだ、漆器の文化

そしてもうひとつ、今回の旅で強く感じたのが、漆器とこの土地とのつながりです。木曽を囲む豊かな森は、何世紀にもわたって、この地のものづくりを支えてきました。

漆は木を守り、丈夫にするだけでなく、使い続ける時間とともに独特の艶や深みを生み出していきます。工房に並ぶ器を見ていると、木から器をつくり、漆を重ねることで作られる一つひとつの作品が、木曽の森から続く物語の一部のようにも感じられました。

土地があり、素材があり、そこに人の手と時間が重なるからこそ、ここで生まれるものには、この場所でなければ生まれない表情があるのでしょう。

「木と漆、光が出会う場所」を一枚の作品に

今回の木曽での出会いから生まれたのが、「Kiso Lacquerware “Layering Lacquer」

工房で目にした漆の艶や光。黙々と手を動かす職人の姿。そして、長い時間をかけて受け継がれてきたものと、新しいものが自然に共存している空気。私がこの場所で感じたものを、一枚の作品のなかに残したいと思いました。

漆は、単にものの表面を美しく仕上げるためのものではありません。木を守り、時間とともに変化し、そのものが歩んできた年月までも映し出していく素材です。

木曽で出会った漆器を通して、私はあらためて、伝統とは「過去に残されたもの」ではなく、今を生きる人の手によって、今日もつくられ続けているものなのだと感じました。そして、変わることを恐れないからこそ、その先の未来へ受け継がれていくのかもしれません。

日本・シンガポール外交関係樹立60周年記念展へ

今回の木曽漆器をテーマにした作品も、2026年9月29日から10月10日まで、シンガポール・オーチャードのジャパン・クリエイティブ・センターで開催する、日本とシンガポールの外交関係樹立60周年を記念した展覧会でご紹介する予定です。

これまで「Voyage」を通して訪ねてきたシンガポールの文化と、今回の「画家とめぐる日本」で出会う日本の文化。

異なる土地で出会った人々や手仕事、そこから生まれた作品が、一つの場所でどのようにつながっていくのか。私自身も、今から楽しみにしています。展覧会についても、この連載を通して少しずつご紹介していきたいと思います。

次の満月の日には、また新しい日本の物語をお届けします。どうぞ、お楽しみに。

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Written By

幼い頃から絵画と書道に親しみ、 10代で女優を経験。
多摩美術大学を卒業後、イタリア留学やアナウンサー業などを経て、12年前にシンガポールへ。

72ヶ国を旅してきた人生は、無限に広がる物語。
まだまだ面白いことが待っている気がして止まない。

国際結婚10年目、地球にやさしい生活を心がけながら、シンガポールを拠点に、その土地の風景や人々、旅の途中で出会った一瞬の美しさや感動を描くことで、世界に小さな魔法を散りばめていけるようなアーティスト活動を継続中。

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